第一記事
《訪問インタビュー》

東京における緊急輸送道路沿道
建築物の耐震化を推進する件

東京都都市整備局市街地建築部
耐震化推進担当課長 吉野 敏 郎
聞き手 協会専務理事・本紙編集長 宮地 忠継
編集部次長 加藤 久直

宮地 本日は東京都の都市整備局市街地建築部耐震化推進担当課長の吉野敏郎さんのお話しを伺いたいと思います。
吉野 よろしくお願いします。
宮地 吉野さんの所で都内の緊急輸送道路沿道建築物の耐震化推進ということをおやりになっていると理解しているんですけれども、最初に制度の概要と言いますか、おやりになっている緊急輸送道路沿道建築物の耐震化推進ということで、どういうことを問題点にして、どういうことをおやりになっているか、概略をちょっとご説明頂きたいのですが。
吉野 はい。都内に緊急輸送道路というのが二千キロございまして、昭和五十六年の五月以前の旧耐震で建てられて、かつ倒壊した時に道路の半分以上を塞ぐ可能性のある建物が一万二千棟あるんですね。
宮地 はい。
吉野 それで我われは、緊急輸送道路というのは震災時に非常に重要な機能を果たす道路ですので、その機能を確保するために沿道の耐震化を進めて来たのですが、今の既存の制度の枠組ではなかなか進まないので、もう一歩踏み込んだ施策が必要だということで、今回耐震化を推進する条例をつくったという経緯です。
宮地 今までの制度で、どういうことをされていたんですか。何でそれが進まなかったんですか。
吉野 もともと耐震改修促進法というのが阪神淡路大震災の時にできまして、東京都としてはその法律に基づいて指導・助言ができるんですね。耐震の診断と設計と改修の助成制度を作って、建物所有者にお願いベースで耐震化を進めて下さいという話は、ズーッとこれまでもやって来たんです。一昨年度三千棟の建物所有者への戸別訪問もやって来たんですが、最終的に耐震診断をするかどうかは、建物所有者さんの判断に委ねられていまして…
宮地 先ずは耐震診断の話ですね。
吉野 はい、これまで東京都はいろいろ施策を沿道の耐震診断については他よりも手厚く助成制度はやって来たんですね。
宮地 指導・助言だけじゃ皆やってくれないから、新たに制度をつくったということですね。
吉野 はい。今回の条例の一番のポイントは耐震診断の義務化ということなんです。
宮地 それで具体的にどういう新制度になったんですか。
吉野 先ず、もともと緊急輸送道路が二千キロあって、対象建築物は一万二千棟なんです。
宮地 その緊急輸送道路二千キロというのはこれはもう目ぼしい道路は全部先ずは指定したということですか。
吉野 もともと緊急輸送道路というのは指定されていたんですね。その中で条例に基づいて、二千キロある中の一千キロを特定緊急輸送道路と指定したんです。それでその一千キロの対象建築物が約五千棟になるんです。
宮地 これはどういう基準で特定緊急輸送道路に指定されたんですか。

吉野 もともと緊急輸送道路が一次、二次、三次というふうに目的に応じて分かれているんですが、東京都としては広域的な都内全域に形成されているような主要なネットワークを先ずやるべきだということで、広域的な観点、他県との結び付きとか、防災拠点となる区市町村庁舎を結ぶ道路、そういう道路を特に耐震化が必要な道路として指定したんです。特に他県との結び付きというのが大きいですね。
宮地 例えば、この図を見させてもらいますと、早稲田通りは指定されてないし、それから武蔵野市までの五日市街道なんかは指定されていませんよね。それはその辺の判断で指定されたということですか。
吉野 一次二次三次とそれぞれ目的があって全て重要な道路なんですが、東京都が広域的な自治体としてやるべきことというのがやはり第一次の緊急輸送道路の機能を確保するということだという判断ですね。
宮地 特定緊急輸送道路、これに指定された主要な道路、例えば環七、環八はもちろんのこと、環六もほとんど入っているし、あと青梅街道、新青梅街道、甲州街道はもちろんのこと、玉川通り、日光街道、水戸街道、京葉道路、等々が全部入っているんですが、こういう道路においてどういうことを対応しようということですか。
吉野 先ず、その特定緊急輸送道路に接する敷地に建つ建物のうち、昭和五十六年五月以前に新築された建物は、いわゆる旧耐震基準で建てられた建物ですが、旧耐震は設計において震度六強程度の大地震を想定してないですから、倒壊の恐れがあるので、先ず建物の耐震化を図らないといけない。
宮地 はい。
吉野 それから道路の機能を確保するということで、仮に建物が倒れた時に、道路の半分以上塞いでしまうと、道路の機能が確保できないので、半分以上塞ぐ可能性のある高さの建物を対象に耐震化を進めようということですね。
宮地 環七など、パッと見て幅が二五㍍か三〇㍍ぐらいはありますが、例えば三〇㍍とすると、高さ一五㍍以上の建物は全部対象になると。
吉野 そういうことですね。
耐震診断
宮地 吉野さんの認識で現在どこまで耐震診断が進捗していますか。
吉野 耐震化を最終的に成し遂げるためには古い建物だと耐震改修をするか、建て替えるか、除却というのもありますけどね。無くして駐車場に使うのも一つの耐震化です。東京都の助成を使わずに、独自で耐震改修をやる場合もありますので、完全には把握できないんですが、おおむねもともとの緊急輸送道路でも既に七〇%台ぐらいは耐震化がされていると。
宮地 そうすると先ほどの五千棟とはどういう関係になるのですか。
吉野 つまり五千棟というのは旧耐震と高さが道路の半分以上倒れる可能性のあるもので特定緊急輸送道路に接するのが五千棟なので、特定緊急輸送道路にある建物というのはもっとすごい数があるわけです。その内で、例えば新耐震基準で作られた物などを合わせた中で七〇%台のものは耐震性能があるということです。
宮地 そうすると五千棟のうちは相当残っている可能性はあるわけですね。
吉野 はい、そういうことです。旧耐震の物は耐震改修をやらないと耐震化が図れない訳ですから、旧耐震で条件に合うのが五千棟あって、その内のどのくらいが耐震診断をして、耐震改修をして、というのは、今回の条例で今年度の一〇月から耐震化状況報告というのを一月四日までの期限で出して貰って、現在三千二〇〇ぐらいは戻って来ているんですけども…
宮地 それはその五千棟に対して出したわけですね。
吉野 はい、そうです。そのうち耐震診断をしていない物が約八割ぐらい…
宮地 八割がまだ耐震診断してない・・・。
吉野 この状況報告はまだ残り千数百棟ございますので、確かな数字ではないのですが、先ずは耐震診断をやって貰わないといけないと。条例ではこの四月から義務化がかかって来るんですね。
宮地 今まではまだ義務化されてないわけですか。
吉野 はい。ただ今年度から申請はできるように、お金は出せるようにしたんですが、四月から耐震診断の義務化がされればもっと申請は出て来ると思いますね。
宮地 お金は今までも一応は出たんですね。
吉野 今までも出たのですが、今回この条例に合わせて相当拡充してますので、例えば耐震診断については図面があれば基本的に所有者には負担がかかりません。
宮地 それは四月一日からそうなるということですか。
吉野 今も既にそうなっているんです。助成申請というのは、区市町村が受付けをして、区市町村が一旦消費者さんにお金を払って、国や東京都は区市町村のほうに払うようになるので、区市町村は一旦予算化しないといけないんです。それが九月の補正予算でやった所が多くて、十一月頃から助成申請が受付けられるような整備が整ったと。
宮地 去年の十一月からお金が出せるようになったと。
吉野 そうですね。診断の義務化は四月からですけども、助成制度だけは今年度からやれる準備をしてたんです。八月末から五千棟に対して戸別訪問でお願いしてきて、今年度は昨年度の四倍ぐらいのペースで来ていますので、四月からはもっと申請が増えると思います。それで限度を二十五年度までに区切っています。
加藤 マンションとそれから延べ面積が一万平米以下の建築物は、全額出るということですか。
吉野 図面があればですね。
加藤 一万平米を超える建築物は二〇%ですか、所有者が出すのですか。
吉野 そうです。ただ割合は四%で、これは大企業が所有している建物が多いということで所有者負担を求めているという…
宮地 マンションと延べ面積一万平米以下の建物で五千棟の内九六%になるということですね。
吉野 そうです。ただ、マンションは合意形成が要りますので、二十四年度と二十五年度、二年間かけて診断が完了するぐらいのペースでやって頂ければなあと思います。
宮地 マンションというのは区分所有分譲マンションのことだと思いますが、マンションの合意形成という意味は、管理組合の総会の決議を取るということですか。
吉野 そうですね。
宮地 総会にかけてもこれは一般決議事項ですよね。だから過半数の賛成があればできると。
吉野 聞くところによると、規約で別に設定している所もあるみたいですね。その場合は規約改正なので四分の三です。
加藤 ざっくり言って、この五千棟の内マンションとマンション以外の比率は大体どのようなものでしょうか。
吉野 緊急輸送道路全体で一度アンケート取ったことがありまして、分譲マンションが一二%ぐらいです。だから五千棟でもこれくらいかなあと思っているんですが。
加藤 分譲マンションは意外と多いですね。
吉野 多いですね。ビルが五五%です。
加藤 耐震診断をするのはどういう人たちなんですか。
吉野 一級建築士、二級建築士、木造建築士とあるんですけども、診断したあとに補強設計をできる人ということで、通常建築士法で定められているその建物を設計することができる建築士という規定にしています。だから木造の場合は木造建築士とか二級建築士でも良いんですけど、鉄筋コンクリトになると一級建築士ということですね。
加藤 一級建築士であれば誰でも良いわけですか。
吉野 そうですね。(次号へ続く)

5月9日の投稿に後半があります。

第二記事

《寄稿》

平成二十四年度税制改正解説
税理士法人タクトコンサルティング 代表社員 本郷尚
前年度から継続されている増税路線が目白押しです。この分野のナンバーワン本郷先生の解説です。