皆さんこんにちは。前回よりマンション問題を、具体的な事件における原告と被告のそれぞれの主張、そして裁判所の判断の理由を押さえて行こうという試みを始めました。今回はその第二回目です。マンション管理人室は誰のものかと言う、管理人室の取り合いの話です。同時に車庫、倉庫も一つの事件の中で、一緒に主張されることが良くあります。前回では、代々木上原のマンションで、区分所有者の代表たちは、マンション販売会社が持っている管理人室を、マンションの全員が使うべき共用部分として奪い取る、つまり裁判所に認めさせることはできませんでした。もっと判例を見ていきましょう。

少し後の、昭和五十七年一月の東京地裁判決(東京地裁昭和五十二年(ワ)二三〇九号受付)です。渋谷の道玄坂の頂上近くにある当時としては瀟洒なマンションのケースです。

 

 本件は、地上12階地下1階建てマンションにおいて、管理組合がマンション販売会社を相手取って、管理人室、駐車場が共用部分であるとして起こした訴訟ですが、いずれも区分所有法1条の区分所有権の目的となる、として棄却された事例です。

 本件は渋谷区にある58戸よりなるマンションで、1階に飲食店5戸、2階に事務所、3階以上が居住用の高級マンションです。マンション販売会社は、販売当初は管理人室に管理人を常駐させるとし、駐車場付きとパンフレットに明記していました。

現在の状況はどうかというと、管理人室は自己の雇った管理人に使用させ、管理費から毎月家賃分を取っており、地下の車庫は他に貸して賃料を取っています。また、管理人室と地下の車庫は、販売会社が保存登記をしています。

 

この事実に対し、原告は、管理人室と地下車庫の保存登記を抹消し、それぞれを明け渡し、管理人室と車庫から今までに得た賃料を支払えと主張しています。被告はこれに対し、管理人室、車庫はいずれも区分所有法1条より、構造上区分された部分にあたり、利用上も独立したものだと主張しました。

 マンションはそもそも共用部分と専有部分とから成っているものですが、構造上・利用上独立しているか否かで区別されており、この独立性に焦点が置かれたとみられます。では、個々に見ていきましょう。

 

①  管理人室

 管理人室は1階にあり、玄関室・階段室に接して、和室2室、ダイニングキッチン、浴室、トイレからなる24.91㎡の居住部分であり、室内にあった地下揚水ポンプ警報器、火災警報集中受信板、エレベーターの緊急電話装置はすでに管理人室隣りの管理人詰所に移設され、1階部分の電話配線板が室内に設置されています。

 

原告は、1階の飲食店が深夜まで営業しており、管理人詰所にはトイレがないことから、夜間管理人が詰めることは困難であり、義務遂行のため管理人が居住するには管理人室以外にないと主張。更に、分譲の際、管理人常駐として管理人室をパンフレットに明記しており、また、管理人室を保存登記したのは、原告がマンションを購入して保存登記をした後であると主張しています。

これに対し被告は、管理人室は、壁・窓・扉で囲まれ他の部分と明確に区分され、構造上独立性を持っていること、保安管理は管理人詰所で行えること、夜間詰所に人がいなくても、現状況から保安管理上支障はないと主張しています。

 

判決は、構造上の独立性を認めました。管理人室は周囲をコンクリートの壁に囲まれており、扉は密閉式になっていて管理のための受付窓口はなく、電話配線板が壁に占める割合はわずかであることなどから、構造上区分された部分とみなしたのです。また、管理人室の出入り口は独立していて、内部は住宅として利用できるものであるとし、電話配線板は移動も可能なことから、利用上も独立しているとみなし、更に管理人を常駐させることが不可欠とまでは言えないとしています。

②  地下車庫

 地下車庫は車両が6台駐車できます。

原告は、床下には共用部分である排水槽・受水槽が埋設されていて、床にはマンホール・排水ポンプが設置され、天井には受水管・排水管が配管されているから構造上独立性がなく、地下の揚水ポンプ室の点検のためここを通るから利用上の独立性もないこと、また、五八世帯の居住者があるから車庫を設けるのは当然で、分譲時の物件説明書にも駐車場が明記されていると主張しました。

これに対し被告は、周囲がコンクリートで囲まれており、構造上独立した部分であって、車は他の部分を通過しないで外に出られるから区分所有権の目的となると主張し、床のマンホール等や天井の受水菅等の設置は車庫のわずかな部分であり、車庫使用の妨げにならないことなどをあげて、構造上の独立性を主張しました。

 

判決は被告の主張を認めました。周囲・天井・壁がコンクリート壁・シャッター・扉等によって他の部分と明確に区分されていることをあげ、床下の各水槽とはコンクリートの床で画されるとして、構造上の独立性を認めたのです。

また、同車庫には共用部分である諸装置が設置されており、その点検のために1日2回車庫を通行するが、その排他的使用に特に支障がなく、区分所有者にも影響を及ぼさないとして利用上の独立は妨げられないとしました。更に、わずか六台の車庫では、これが共用部分となっても、住人の大半はこれを利用できないとして、その意義も認めませんでした。

 

以上により、原告の請求は全面的に棄却されました。原告は東京地裁の判決を不服として東京高裁に控訴しましたが、結局原告の主張は退けられました。「管理人常駐」「駐車場有り」とパンフレットに書いてあったのは何だったのか、駐車場を住人が使えなくて他の人が使うなんて、と素直に考えれば、区分所有者が怒るのも当然な気がしますが、裁判所は、構造上の独立性、利用上の独立性をその判断の柱に据えてその部分の共用部分性、専有部分性の区別をした判決です。裁判所はマンションにおいて、玄関や廊下などの明らかな共用部分以外は、まだ特定の所有者に属するものだと強く考えています。

 その後久我山のマンションの同じようなケースでも、やはり管理組合側が負けました。

 

 転機が訪れます。

 そもそものきっかけは平成元年三月の東京地裁の判決(東京地裁昭和六二年(ワ)一二一〇一号受付)で東京の文京区春日にある七階建て、延床面積9167.15平方メートル、1、2階部分に店舗、駐車場、倉庫があり、2階以上に居宅108戸がある大規模なマンションのケースです。

 このマンションの1階に、玄関脇に床面積8.28平方メートルの管理事務室があります。管理人が常駐し、ここで来訪者のチェック、共用部分の清掃、ゴミの処理、不在者に対する郵便物や荷物の保管、各種設備の保守点検などの管理業務を行っていました。この管理事務室に接して管理人室があります。床面積37.35平方メートルで、管理事務室との間には引き戸による区切りがあり、一方で外部に面して独自の出入り口を持っています。和室2間、台所、便所、風呂場、廊下が内部にあります。

 事案は過去の事例と同様で、居住部分の区分所有者6名がマンション販売会社Aの関係会社である管理人室の所有者のB社と同じくAの関係会社で管理人室に人を置いて店舗部分などを管理しているC社を相手取り、B社の所有権保存登記の抹消およびC社の管理人室引き渡しを請求したものです。

 原告の論理は従来とあまり変わり映えがしない①本件のような区分所有建物108戸を包含しているマンションは、住込み管理人による二十四時間の管理体制を取ることが必要であり、そのためには管理人が睡眠、休憩し、同時に管理関係の書類等を保管する場所が必要である。管理事務室だけではその機能を果たせず、本件管理人室とを一体不可分のものとして利用する必要がある。②A社が当初マンションを販売するに当たり頒布したパンフレットには、1階に共用部分として管理人室を設ける旨明記されており、原告らはこれを信頼して購入した。というものです。

 これに対して被告側は自信満々です。反論は①区分所有法1条による専有部分になるためには、その部分に構造上の独立性と利用上の独立性が必要であり、かつそれで十分である。②構造上の独立性とは他の部分と明確に隔離されている事であり、本件管理人室は区分けされた一室であり、かつ出入り口もあることからそれは明らかである。③利用上の独立性とは当該建物部分が住居や店舗などの用途に供されうることであり。そのためには他の部分を伴わずそれ自体で用途に使用することに支障がなく、同時にそれ自体で通常の取引の対象となることである。本件建物にそれがあることは明らかであり、専有部分となりうる要件を充足しており、共用部分ではない。④パンフレットの「管理人室」とは管理事務室の事である。

 判決はほぼ全面的に被告の主張を認め、利用上及び構造上の独立性があることから専有部分としました。

 原告は控訴します。平成二年六月の東京高裁の判決(平成元年(ネ)九六七号受付)です。

原告と被告の主張は基本的には地裁の時と同じですが。高裁は以下の事実に着目しました。

①本件マンションの管理業務は、昭和五十九年六月までは被控訴人であるC社が行っていたが、管理費の値上げを巡って区分所有者との間に対立が生じ、七月以降は居住部分の区分所有者が管理事務室の返還を受けたうえ、管理人を雇用して自主管理を行ってきた。管理人室はC社が占拠を続け、その後管理人室にある便所等の使用を拒否したため、管理人は一時仮設の便所を使用していた。(その後事実上管理人室内にある便所等の使用が認められ現在に至る。)

②本件マンションの設計図には「管理事務室」と「管理人室」とが一体として「管理人室」と表示されている。

と、これらの事実を踏まえたうえで、判決は管理人室の構造上の独立性と利用上の独立性の判断に進みます。構造上の独立性についてはこれを認めます。利用上の独立性については、まず、管理事務室が本件マンションの維持のために絶対に必要な事を述べます。そして進んで便所や着替え場所、書類保管場所の必要を認め「本件管理人室を全く使用することなく、本件管理事務室だけを使用して管理したのでは、本件マンションの管理業務を適切かつ円滑に遂行することは困難であり、本件管理人室を専有部分として特定の者の所有に帰属させた場合には、本件マンションの区分所有者の生活関係に支障が生じる恐れがある」として、また1階には住居が無く、同時に管理人室は畳等で事務室には適さないとしたうえで「本件管理人室は、本件マンションの区分所有者の利益のために必要な存在であるという性質を有しており、また、それ自体として住居、事務所その他の独立した建物としての、用途に供するには適しておらず、むしろ、本件管理事務室と一体として本件マンション全体の管理に使われるのがその最も自然な用途なのであるから、本件管理人室は利用上の独立性を有していない。」として、区分所有者全員の共用部分であることを認めました。B社、C社は上告しましたが最高裁は高裁の判決を支持しました。

 一体これはどうしたことなのでしょう。前回からの、本質的にはあまり違いが無い事案について、裁判所の判断が大きく変わったのです。筆者はここに、裁判と言っても結局は通常社会の出来事、マンションというものの位置づけが大きく変わり、管理組合の役割が重要になってくると、そういう雰囲気を裁判所も素直に受けて、全体の流れに沿った判決を下さざるを得ないのではないかと考えます。この後鎌倉、中野のマンションで同様なケースが出ますが、いずれも管理組合が勝っています。