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高島平マンション専用駐車場ー駐車場専用使用権は誰のものか、元地主と管理組合の壮絶な戦い

 全国貸地貸家協会新聞 編集部

 

 高島平マンションは、昭和四八年に分譲された八階建て三四戸のマンションで、一階は店舗となっており、二階以上が住戸となっています。一階の理髪店、サウナなどは分譲会社であるYが経営していました。敷地の北側に四台分、西側に四台分の駐車場がありますが、いずれもYが来客用として分譲時より無償で使用してきました。更に、Yは屋上や外壁に看板、敷地北側の空き地部分に水槽・ポンプ・ボイラー等、店の営業のための設備類を設置し、いずれも無償で使用し続けてきました。マンション分譲は別会社に代行させましたが、マンションの管理はYが行っています。

 

 そもそもYが一階の店舗部分の管理費を支払っていなかったことに端を発し、他の区分所有者たちが自治会を結成して昭和五三年に管理費の支払いを求める訴訟を起こしたのです(第一次訴訟)。これについては最高裁で決着してYは管理費を支払うことになりましたが、区分所有者たちはこれによって目覚めたのでしょう。 敷地にある八台の駐車場はすべてYの専用使用であり、空き地はすべてYの営業用の備品が設置されており、自転車置き場もないため自転車は東側の通路に置くしかなく、しかもYは専用使用料を一銭も払っていない、敷地の固定資産税は皆で負担しているのに、Yばかりがいい思いをしているではないか、と。Yにしてみれば、ここはそもそも自分の土地、店を経営していた所にマンションを建設したもので、分譲はしたけれど自己所有の意識が強かったに違いありません。

 

 そもそも最初の規約(原始規約)は分譲時にYが作成したもので、原始規約では、専用使用については、敷地の使用権はYが保有すること、建物のうち広告物等の設備の設置のための外壁の一部、屋上及び塔屋外壁の使用権はYが保有すること等を条項で定めています。その後平成元年に、区分所有者たちは管理組合Xを設立し、Yも当然組合員となります。その時に原始規約のほとんどの条項は継承されましたが、但し、専用使用権の変更と専用使用料の納入は総会で決定できると変更しました(新規約)。その時Yは賛成しませんでした。

 

 その後平成四年、管理組合Xは定期総会で、西側の駐車場は、マンション全体の管理用自動車・緊急用自動車の駐車場及び駐輪場にするためYの専用使用権を消滅させることを決議しました。更に、北側の駐車場の専用使用権は認めるが、使用料を支払うこと、看板等の使用は認めるがその使用料を支払うこと、敷地の北側に設置したボイラー等は撤去することを決議しました。ところが、Yは原始規約を盾に取り、決議には一切従わないことを明言したため、再度訴訟に持ち込まれることになります。

 

 東京地裁平成六年三月の判決(平成五年(ワ)九五三九号受付)では、管理組合Xが全面的に勝訴します。Yは、旧規約(原始規約)では規約の変更は全員の書面による合意が必要となっているのにその手続きを踏んでいないから、規約(原始規約)の変更は無効であると主張しましたが、昭和五九年施行の「建物区分所有等に関する法律」三一条第一項の、「規約の設定・変更又は廃止は区分所有者及び議決権の四分の三以上の多数による集会の決議によってする」という規定は強行規定であり、旧規約(原始規約)で異なる条項があったとしても規約の改正を特別決議で行うことができる、として新規約への変更に違法はないと判断されました。これについては地裁・高裁とも同様の判断です。

 ここで注目すべきは、三一条一項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」という規定です。この「特別の影響を及ぼす」という何やら玉虫色の言葉は、論理の持って行き方で敵にも味方にもなるように思えます。実際、新規約、総会の決議が被告の権利に特別の影響を及ぼすかどうかは、地裁・高裁で意見が分かれました。

 地裁は、規約の設定・変更の必要性を判断するに際し、全員が受ける利益と一部の区分所有者が受ける不利益とを対比して、不利益が受忍できる限度を越えている場合に特別の影響を及ぼすと考えるべきとして、駐車場四台分がなくてもあと四台分が残っており、格別の不利益はないから特別の影響は及ぼさない、としてYの専用使用権消滅の決議は有効だとしました。また、専用使用料の設定についても、Yが一九年間無償で専用使用していた間他の区分所有者は公租公課・管理費を負担していることから、経済的均衡を考えると、特別な影響をあたえるものではないからこちらもYの承諾は必要なく、決議は有効であるとしました。

 それに対し高裁は、この専用使用権は共有物の使用方法として分譲の際に合意されたもので、債権的なものでなく物権的なものだとしています。そもそもこの専用使用権は、建物内で行われる商業活動に必要なものとして設定されており、居住者のための駐車場はないという前提で分譲されているし、現実には居住者の自転車は盗難を考え居宅の前に置く人が多く、修理に来る業者の車はYの空いている駐車場に入れており、それらを考えると、他の区分所有者の必要性が商業活動上駐車場を必要とするYの利益を上回るとは言えないとして、規約の改正で専用使用権を消滅させることはできないとしています。区分所有者全員の共有になっている敷地における一部の区分所有者の専用使用権を、物権的と表現するのが適切であるかどうかはやや疑問がありますが、それは、簡単には変えられないものだ、という意味を込めたものかと思われます。

 

 また、専用使用料の設定の規約の改正についても、そもそもマンションの維持運営に要する費用は管理費と積立金として徴収する仕組みなので、Yは全くの無償ではなく相応の負担をしているとして、これを有償とするのはYに不利益を与え、特別の影響を与えるからYの承諾が必要であるとし、もしYの負担が不十分であると考えるなら管理費を公正に負担させて解決するべきだとして、専用使用料の決議も無効であるとしました。

 この種の裁判では、新規約、総会の決議が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすのか及ぼさないのか、が焦点になることが多いようです。一般的に、原始規約で一部の区分所有者に与えられた専用使用権を奪うことになる場合は、特別の影響を及ぼすと考えられるようですが、区分所有者全体に高度な必要性と合理性があると判断された時は、逆の結果になるケースもあります。

 

 どうにも納得のいかない管理組合Xは最高裁に上告しました。第一次訴訟で看板の撤去や駐車場の専用使用の禁止も求めた際に、「専用使用権の規定が無効であるとは言えないが、これらのことについては将来規約の変更が可能である」と高裁が下した判決に基づいて管理組合が規約改正をして、それに基づいて行った決議を、同じ東京高裁がすべて否定したことになります。

 結局最高裁で専用使用権の消滅については残る四台分の駐車場だけではYが営業活動を継続するのに支障を生じる可能性がないとはいえないこと等を理由として、特別の影響を与えるからYの承諾が必要なのに得ていないとして、高裁の判決通り集会の決議は無効とされました。 

 しかしながら、専用使用部分の有償化については認容されました。ただ、その額は管理組合が一方的に決めるべきものではないとして、その金額については審理を更に尽くすべきだとして高裁に差戻しとなり、差戻し控訴審では、当初管理組合Xが請求した額より相当減額された額の判決が出ました。

 

 マンション分譲時に作られる規約(原始規約)は、現実には分譲会社が一方的に作成して区分所有者に押し付ける形となっています。本来管理規約は、区分所有者が自分たちの手で自分たちのために作るべきものであるはずで、この件のように、分譲会社が区分所有者でもある場合は、区分所有者の利益に偏りが出ることはある程度予想されることです。とするならば、その原始規約が作られるシステムそのものに問題があると考えられるのではないでしょうか。       ■