《訪問インタビュー》
借家の改造が自由になる! ーUR都市機構の新規賃貸住宅事業ー
UR都市機構・東日本賃貸住宅本部住まいサポート業務部・営業  推進第3チーム チームリーダー  倉上卓也
聞き手 協会専務理事・本紙編集長 宮地忠継
編集部次長 加藤久直
「借家の内装を借家人が自由に変えてよい。こういう賃貸住宅が出てきました。これは場合によったら不動産と言うものの見方を変える可能性を秘めています。今月はこのコンセプトを推進されているUR都市機構の倉上卓也氏にお話を伺いました。」

内装はテナントの自由
宮地  本日はUR都市機構の東日本賃貸住宅本部のチームリーダーの倉上さんに住宅産業においても非常にエポック・メーキングな新しい動きについていろいろお話しを伺いたいと思います。
先ず、UR都市機構さんが賃貸住宅なのに内装を相当程度入居者が自分で変え得る仕組みを作ったということで幾つか報道され出したのですが、先ずどんなことをおやりになったかをご説明ください。
倉上  はい。私どもこれをDIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)住宅という名前で呼んでいるんですが、通常賃貸住宅だとよく壁に釘一本打ってはいけないというようなことがありますが、これは、お住まいになる方がご自身の使い勝手のいいような形に内装を変えて頂けるという仕組みが作れないものかということで、去年の9月から新しく導入したシステムなんです。通常、賃貸住宅だと原状回復とか、元通りに戻して下さいということが一般的にあろうかと思うんですけど、こちらの住宅の場合は内装に手を入れた場合でも、原状回復はせずに、退去する時はそのままで構いませんよということで…
宮地  原状回復せずに退去してよいと。
倉上  はい。昨年九月に全国で七団地で四〇戸ほど募集を始めたんですけど、お客様からはどうもイメージが湧かないよと。こんなお声をかなり頂いたので、それであればこんなことが可能ですよ、というのをご覧頂こうということになったんです。
東京ではこの南大沢という所でやってまして、それから関西にある私どもの西日本支社でも一団地一戸そういう住宅を選んで、やはりホームページで公開してまして、東京と大阪でそれぞれ発信して行こうと、取り組んでいます。
宮地 入っているテナントさんに、ご自由に、ということですか。それとも、別に募集したんですか。
倉上  募集したんです。全国七団地そういう団地を選びまして、それぞれ大体四戸から五戸、賃貸ですから空き家が大体いつもありますので、空いてる住宅をピックアップして、この住宅はこれやっても構いませんよ、という住宅を決めて、借りて下さる入居者の募集を行いました。
東京都内では町田にあります小山田桜台という団地で、四戸募集して一戸契約が決まりました。全国的には四〇の内で契約まで行っているのが、今五戸ぐらいで、実際こういう工事をしたいということでお届を頂いている方がお二人…
いずれにしても全体四〇戸の内の、半年募集をかけて五戸で、やるって方が二人だとすると、ちょっとアピールが足りないのかなあと。
宮地  四〇戸というのはどういう基準で選ばれたのですか。募集はたくさんあるんでしょう。
倉上  結局、私どもは元々公団住宅ですので、ある程度の大きさを持った住宅が多いんですけれども、今回選んだ四〇戸というのは比較的大き目のものを選んでいるんです。小さいものだと、お一人だとあまり内装をいじって長く住む、ということはないかと。やっぱり世帯でお住まいになって、機構の住宅の場合は公団時代からそうなんですけれども、大体平均居住期間が一世帯一〇年とか結構長いスパンなんですね。
宮地  はいはい。
倉上  そういう長いスパンの方ほど自分で手を入れたいというご要望があるんじゃないかということで、そういうファミリー向けに借りて頂けるような、2LDKとか3LDKとか比較的大きな物を選びました。

宮地  成る程。具体的にどのくらい手を入れていいものなんですか。こちらの住宅の実験ではどんなことをされているんですか。
倉上  はい。今さっきご覧頂いた部屋は2LDKのお部屋なんですけども…
宮地  七〇平米ですね。
倉上  はい。先ず洋室の所を、壁はピンク色にネットで最初に公開しましたけど、そこの壁を塗りましたと。それからお風呂場の入口の所の床をフローリングに張り替えましたと。それからキッチンの床を張り替えたのと、タイルを張ったと。
宮地  キッチンの水回りの所ですね。
倉上  はい。それから洗面所に棚を取り付けて、それから通常の押入れタイプだったものをクローゼットに替えた、という形ですね。
宮地  はい。

倉上  あとは和室の壁を和室らしい、今普通のクロス調のものなんですけども、簡易に塗れる漆喰調のものがあるので、それに塗り替えようかと思っています。そうすると大分部屋毎に壁がピンクだったり、漆喰の壁があったりということで、やや統一感がない部屋にでき上がっちゃうんですけど、まあ、こういうことができますよって、この部屋についてはあくまでも見本ということで、お住まいになる方が実際にこの通りに変えた方がいいですよ、というモデルではないんですけどね。
宮地  そうすると壁の色だとか、床の仕組みとか、あるいはクローゼットの様子とか、その辺まではもう全く全部自由に変えて良いということですか。
倉上  そうですね。例えばもし大がかりにおやりになるとすると、ドロップイン・コンロとかガス・オープンレンジとかを付けて頂くことも可能ですよと。それから洗面台はシャンプー・ドレッサーみたいないわゆる大型のものに変えて頂くとか、そういったこともできますよと。
宮地  水回りの機材を変えるということですか。
倉上  そうですね、はい。床のフローリングの張り替えまでは可能にしているんですけども、ただ床の場合は集合住宅の場合はどうしても遮音性の問題がありますので、床については一応一定の基準の物でおやり頂くと。
宮地  下に部屋がある場合ですね。フローリングの等級がありますよね。
倉上  そうですね。それから塗料はシックハウス対策がされている物、フォースターという規格があるんですけれども、そういった制約条件がありますけど。
宮地  成る程。そうすると、今おっしゃったようないろいろな改装をテナントさんご自身でおやり下さということですか、基本的な発想は。
倉上  はい、そうです。日曜大工が好きな方がご自身の手でやるというパターンと、もう一つはちょっとしたリフォームをやって頂けるような工務店さんにお願いするということも想定しています。あとはどこまでお金をかけるかですね。
宮地  専門家に依頼するのもやって良いですよ、ということですね。
倉上  そうです。それから実際こういう方がいらっしゃったんですけども、IT関係の仕事をされている方で、例えばご自宅でお仕事をする時間が長いので、サーバーなんかをたくさん置いたりすると温度管理の問題があって、エアコンの取り付け部分をいじりたいとか、そうなってくると電気関係の工事は資格をお持ちの方でないとできない部分もあります。

宮地  成る程。そうすると、今あるものを変えるのは基本的に全部よいということなんですか。
倉上  はい。
宮地 そうなるともっと進んで、例えば間仕切りも変えたり、更にトイレとか風呂の場所を変えるとか、そういうニーズにまで進んでいくと思うんですが、その辺はどういうふうにお考えなんですか。
倉上  そこは二つハードルがあるのかなと思うんですが、一つはやはり法的な部分がございまして、賃貸住宅の場合にはご自分で何か設備を入れた時には造作の買い取り請求とか、退去される時に有益費の償還が出るわけです。そういった、手を加えたことに対する対価の扱いをどうするのかというのが法的な課題としてはあると思っているんです。
一応そのどちらにしても、造作買い取り請求にしても、有益費の償還請求にしても、特約を付けてそれを放棄するのが有効だという判例が出ていますので、法律上は私どもはそこを頼りにしまして、放棄して頂きますよと。お互い契約上で合意しているということで。
宮地  新しく付加価値が付いたとしても、基本的には放棄してもらうということですね…
倉上  はい。ただそれが実は借地借家法上はそれで良いんだと思うんですけれども、消費者契約法が新たに施行されたことで、消費者契約法の一〇条で事業者と個人の方の契約関係を規定している中で、事業者の側に一方的だと判断されるとどうかなあという点があります。
お風呂やトイレを大がかりにいじると、二〇〇万、三〇〇万というお金がかかりますので、お互い合意していればいいんでしょうけれども。まだ消費者契約法について判断が法的にはされていない部分がありますので、そこがある種のリスクになるのかなという気がしています。
そこについての私どもの目安としましては、こちらの住宅にお入り頂くときに、施工期間として三か月間見てまして、三か月間のお家賃は頂きませんよ、という契約にしているんですね。こちらの住宅だと三〇万ぐらいになるんですけども、そこの部分で想定している価値としてはそういう三〇万の範囲ぐらいなのかなあということで考えているんですね。
先ほどご覧頂いた部屋で今の所で終わっている部分で多分全部で一四、五万で収まっていますので、その位の範囲でできることからおやり頂くということなのかなあと。
もう一つハードルになりそうなのは、やはり構造上の問題というのがどうしてもあります。実は今回こちらの住宅は一階の部分を選んでいるので、音の問題ですとか、構造の問題ですとかがあまりないのですが、これから募集する物の中には上層階のものもあるので、例えば、水回りなど位置を変えた時にお部屋の中から集合管までの勾配が取れないとか、取り回しが効かないとか、そういった物理的な制約があるケースが考えられますので、これについては個別にその住宅の図面と首っ引きで行かないと分からない所もあります。個々の住宅の構造に着目した時に、できることとできないことの差が案外大きいのです。
宮地  そうですね。最初の法的な部分は私の考えだと、個別の建物ごとにどういう工事をしたいということで両方了解のもとに、これは放棄します、とかの合意があれば法律的にはすっきりするんじゃないかと思うんですよ。それは一律に決める問題ではなくて個別の工事ごとに話し合って、費用は幾らぐらいだからじゃ半分URさんに持って頂戴よとか、そういう話だと思うんですよ、根本的にはね。
倉上  はい。
宮地  それから二番目の方の構造の問題は、これは当然当事者が話し合いながらやるわけでしょう。
倉上  はい。今回の住宅は比較的いじりやすい物を実は選んでいまして、私どもの住宅は年代によってその時々の技術上の問題というか、造り方の問題がありまして、平成一二、三年以降に建築した物だと、私どもの社内でKSIと言う呼び方をしているんです。公団スケルトン・インフィルと言うんですけども。躯体の中を大きな箱の形になるように最初から構造上造りまして、内装は全部取り替えることが可能なんです。
宮地  間仕切りや水回りの変更もできるんですか。
倉上  できます。具体的に供給した物と言えば、例えば三軒茶屋とか目黒とかに私どもの持っている賃貸住宅はそうなんですけど。そのタイプの物ですと、極端な話、中を一遍取り払ってしまって、水回りを全部取り替えても可能なように、配管なども継手の所を工夫するなりして、ある程度変化に耐えられるようにしてあるんです。
宮地  角度なども考慮してあるわけですね。
倉上  はい。
宮地  それはスケルトンで出しているんですか。
倉上  いや、それは私どもが内装をやって出しているんです。ただ、そこについてはその住宅を今の段階でお客様がいじって良いですよ、という出し方はしていないです。
宮地  いじろうと思えばいじれるけど、そう言ってはいないということですか。
倉上  はい。そちらはまた別の問題があって、現在団地仕様のままになっているので、例えば床暖房が入っているとか住棟内暖が入っているとか他のかなり複雑な物がありますので、いじれるとは言ってももう本当に中をやり出すと、それこそ五百万、一千万という金額でいじるような話になって来るので、そこはまだそういうことではないだろうと。

一方で四〇年代に造っている古い物がありまして、そちらは昔の造り方で造っているので、例えばその配管の取り回しなんかの制約が非常に大きくて、例えば配管がコンクリートに埋め込みタイプの物とかあったりして、そうなると場所も変えられないので、これもお客様ご自身が手を入れるという対象ではないかなあと。
となると昭和五〇年から平成の初期ぐらい、今ご覧頂いたのは平成六年なんですが、供給した私どもから言うと中くらいの古さの物件ですが、このあたりのものがお客様ご自身でやって頂いて良いんですよ、というカテゴリーになるのかなあと思うんです。
宮地  その場合は床とコンクリートの間に空間があってそこを配管が通っていればいいわけですね。
倉上  そうです。ただ現実問題から行くと、例えばお風呂の位置を変えるとなると、ファミリータイプでやるとなると、単純にユニットバスのユニットを交換するだけで二百万ぐらいかかるらしいので、場所まで変えるとなると五百万とかなってしまうので、そこまでおやりになる方がおられるかなあと。そうなると、多分お客様としては中古の住宅買われて、ご自分で内装やるという方にシフトしちゃうんじゃないかと。
宮地  成る程、そうですね。
倉上  もう一つ可能性としてありそうなのは、ある程度お歳を召した方で持ち家を処分して私どもの賃貸に入ってくる方が徐々に増えてまして、そういう方だと例えば自分の使い勝手のいいようにしたいとか、トイレを引き戸にしたいとか、ご高齢の方が使いやすい仕様に変えたいというニーズは一方でありますね。例えば七〇歳くらいで持ち家を処分して引っ越しをされた後にどのくらいのご予算と、健康状態との見合いでいじる所をお決めになってやる方が出てくるかなあという感じですね。
宮地  成る程。先ほどおっしゃった公団スケルトン・インフィルはそういうことができるようになっているということを、テナントは分かった上で入っているわけですか。
倉上  そういう構造の物だということはお伝えしています。ただ、それについてはむしろお客さま自身がおやりになるというよりも、ゆくゆく賃貸住宅として私どもが管理して行く中で大幅に間取りが変えられるのでというようなことを、どちらかというとだから事業者さん向けの指標になるんですけどね。

企画の背景にあったもの
宮地  成る程。それで今おやりになっていることは大体分かったんですが、そもそもどういう経緯でこういうことをおやりになったか、教えて頂きたいんですけど。
倉上  私どもは今全国で七五万戸賃貸住宅を管理してまして、住宅公団の時代から積み上げて行った物が今七五万になっているんですが、首都圏で今四〇万ぐらいあるんですね。
宮地  はい。
倉上  それを私ども社内では大まかに三つに区分けして考えていまして、昭和三〇年代から四〇年代の前半ぐらいに建てた昔のいわゆる公団住宅の2DKタイプのようなものですね。
それから一番数的に多いのは昭和五〇年前後から平成の初め頃に建てた物で、例えば高島平の団地なんかそうなのですが、大量供給していた時代のストックと、それから平成一〇年位からその後の…
宮地  バブルの後ですね。
倉上  そうですね。その平成一〇年頃から後は政策的な面もありまして、都心居住というのが言われていた時代でしたので、その時代というのは比較的都心部に再開発と絡めて住宅供給するようなタイプのタワー物ですとか・・
宮地  はい。
倉上  すごく古い建物は、これはもう建て替えるとか団地全体をどうして行くかという領域に入って来ています。これまでは昭和三〇年代に建てた物は全面建て替えと申しまして、古い団地を一旦全部除却して、そこに新しい団地をもう一度建てるという事業手法でやって参りました。
それがある程度一段落して、残り四〇年代の前半に建てた団地について、全面的に潰して建て替えとなると、そこまでの需要はもうないだろうということで、一部建て替える、一部は例えば耐震補強して使うと。需要が弱い所については団地の建物の数を減らすというようなことで、私どもの中で団地再生というような言い方をしています。そこは私どもがある程度直接手を入れると。
それから、豊田の駅の所で多摩平という団地がありまして、そちらは建て替え事業もやったんですけれども、もう一つはリビタさん、民間の不動産会社さんで、もと東電の系列で今は京王電鉄さんの系列ですが、その民間の事業所さんと私共で組んで古い住棟をスケルトンの形でお貸しして、そこを高齢者用のサービス付き賃貸とかに変えられて、おやりになっている所が…
宮地  リビタさんがそれを変えて、賃貸に出すということですね。
倉上  はい。そこについては土地と建物をご提供して、民間さんのノウハウで再生して頂くと…
宮地  サブリースですね。
倉上  そうですね。ある程度私どもが主導になって事業化して行くような領域だと思っています。真ん中辺の物に付いては、建てて二〇年ぐらいですから躯体はしっかりしてますし、建て替えはもったいないと。 内装を今風にリフォームして、また賃貸に出すと、それなりにやはりコストもかかるということで、ある程度私どもでやっている物もあるんですが、もう一つの方法としてお住まいになっている方がご自身の判断で内装を使いやすいように変えて使って頂くというやり方があるんじゃないか、ということが背景で出て来ているんですね。
宮地  成る程。
倉上  私どもが全面的に主導して事業化するものと、お客様ご自身でやって頂くものと大まかに二つに分けているのですが、ただ今のところ後者は非常に少ないので、これが主流になって五百戸、千戸と増えて行くには少し時間がかかるのかなあとは思っています。
宮地  真中という二〇年ぐらいの物をどう再活用化するかということの中で生まれて来たアイディアだということですね。
倉上  そうです。これがある程度根付いて来れば中ぐらいの古さの物について新しい付加価値になるのかなあと。

(5月号に続く)