文京区本郷、東大徒歩圏に昭和四九年に分譲された10階建て37戸のマンションで管理費徴収をめぐり起きた訴訟です。区分所有者の法人名義と個人名義で管理費等に差を付けたことが区分所有法等にてらし違法であるかどうかが問われました。

原告管理組合Xが法人組合員と個人組合員に差を設け、被告Yに法人用の管理費・修繕積立金を請求したのに対し、被告Yはこれを不服として個人組合員と同等の額しか支払っていなかったことから、原告管理組合Xは平成元年12月、その差額937,144円と遅延損害金の支払いを求めて提訴したものです。

 では、詳細を見てみましょう。

被告Yは、昭和631月に会社名義で購入した区分所有者で、その後住居として使用しています。分譲マンションにおいては、マンションの維持・管理のために、区分所有者全員が管理費・修繕積立金を管理組合に納めるのは当然のことで、被告Yもそのことは承知しています。しかし、このマンションでは所有名義が個人か法人かでかなりの差を付けて管理費等を徴収しています。区分所有法の原則では、持ち分に応じての平等の負担となっているのですが、一方で、同19条では管理規約や集会の決議でそれと異なる定めをすることを認めています。

原告管理組合Xは、管理規約第13条で、

「1 組合員は敷地及び共用部分の管理に要する費用を負担しなければならない。

2 前項の費用の負担については、法人組合員と個人組合員との間に差を設けることができる。  3 第1項の額並びに前項の差及びその割合については総会の決議による」         と定められているから、原告Xは総会の決議に従った管理費等を徴収することができると主張しています。

 原告管理組合Xは、昭和603月の設立総会で、「管理費等の徴収額は法人組合員と個人組合員を区別すること、法人の管理費は1ヶ月坪当たり2,240円、修繕積立金は管理費の30%とする」と決議したことにより、被告Yの毎月支払うべき管理費は73,130円、修繕積立金21,930円に決定したと主張しました。

更に平成元年5月の定例総会において、「修繕積立金を増額し、法人会員の修繕積立金は平成元年7月分から1ヶ月坪当たり930円とする」と決議したことにより、被告Yの毎月支払うべき修繕積立金は30,360円であるとして、毎月個人会員と同額の管理費等しか支払って来なかった被告Yに対して、被告Yの購入から約2年間のその差額937,144円と遅延損害金を支払うよう求めました。原告管理組合Xは、同時に平成元年1221日以降被告Yが原告管理組合Xに対して毎月支払うべき管理費は73,130円で、修繕積立金が30,360円であることの確認も求めました。

これに対し、被告Yは、昭和635月の規約改定前には第132項の規定、即ち個人と法人の管理費等に差を設けるという規定はなかったと主張します。これについては裁判官も、設立総会の開催通知書に、議案として個人組合員と法人組合員とで差を設けることが記載されていないことをあげ、持ち分に応じての平等の負担という区分所有法の原則を変更するのだから、その旨の明文の規定があるべきなのに欠けているとして、昭和635月の定例総会ではっきりと明文化する以前については、少なくとも手続き上は、差を設けた管理費等の徴収は違法であるとしました。

更に被告Yは、法人と個人の管理費等の格差の大きさを問題にし、昭和603月の設立総会における決議に従って計算すると、法人対個人の管理費等の比率は、1.7231であり、平成元年5月の定例総会の決議では、1.6511になりましたが、それでもこの法人組合員と個人組合員との格差は、合理的な限度を超えた不平等なものであり、これらの決議は区分所有法の趣旨及び公序良俗に反して無効であると主張しました。

管理費等に法人、個人の格差を設けた理由として、原告管理組合Xは負担能力の差をあげていますが、裁判官はそこを突いてきます。小規模法人が収入が高いとは限らないし、課税についても、法人は管理費を経費化できる点はあるけれども、例えば給与所得者にも給与控除があるなど、課税の仕方もその理由があり、負担力に応じるというのであれば、よりきめ細かな区分が必要であって、単に法人、個人といった区分方法程度では手段として不適切である、と指摘します。

原告管理組合が格差を設けた理由に負担能力の差のみを挙げているのに対し、裁判官は、持ち分に応じた負担以外の方法として、様々な角度からいろいろな方法に言及しています。例えば、共用部分を使用する程度又はこれによる収益の程度に応じる、という方法も紹介しながら、しかし法人が使用程度が多いとは断言できないし、収益の程度は業種・業態で異なると反対理由をあげています。更に言うなら、水道の使用量の多い住人はパイプの維持費を余計に支払うべきだかとか、家族の多い住人はエレベーターの電気代も余計に支払うべきだという議論もあるかもしれないとして、実質的な利用状態を無視して単に所有の名義だけで差異を設けることは著しく不合理であるとしています。

被告Yは法人会員ではありますが、実際は居住用に使用しており、裁判官はそのことへの考慮もないことを指摘し、更に管理費等の定め方について両者の協議が十分になされないままこのような決議に及ぶことは問題であるとしています。結論として、組合規約及び金額の決議は、管理費等の徴収で法人組合員に差別的取扱いを定めた限度で、区分所有法の趣旨及び民法第90条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」の規定により、無効であるとして、原告Xの請求を棄却しました。

東京ではマンションの管理費の平均は15,000円と言われていますが、マンションの管理費の使い途としては、管理会社への支払い、固定資産税、エレベーター等共用設備の保守維持費、損害保険料、日常的な小修繕費など様々に及び、組合としては資金を潤沢に持ちたいところでしょう。その収入源としては各区分所有者から徴収する管理費が100%です。より良き維持と管理を求めるならある程度高い管理費・修繕費になるのもやむを得ないところですが、マンション全体の戸数によってその総額はかなり変わって来ます。戸数の少ないマンションでは、総額も少な目になり、この件においても管理組合としてその対策を考えた結果、法人から多く徴収しよう、ということだったのでしょう。

マンションの規約変更(4分の3以上)や総会の決議(通常は2分の1、特別決議は4分の3以上)は多数決で決まるため、少数者に不利な定めが設けられる可能性があり、このマンションも法人より個人所有の区分所有者がはるかに多かったのではないかと考えられますが、総会の決議で決まってしまえば従うしかなく、場合によっては、数での横暴も起こり得ます。 区分所有法では31条の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」という規定によって歯止めをかけて、少数者を保護しています。

世間では、複合マンションにおいて、店舗対事務所対住居=321に管理費を設定しているマンションなどもあるように聞きますが、この裁判官だったらどのように判断するのか興味のあるところではあります。