マンション管理費に個人と法人で差を付けたものについて以前取り上げたことがありますが、今回は、賃貸に出すなどして居住していない不在組合員に対し、協力金という負担金を求めることで居住組合員に差を付けることが認められるかが最高裁まで争われたケースです。

大阪市内で大阪住宅供給公社が昭和40年代に建築分譲した14階建て4棟、総戸数868戸のマンション団地の区分所有者全員で構成される団地管理組合が、不在組合員に対し、住民活動協力金の支払いを求めて訴訟を提起したものです。不在組合員とは、賃貸に出していたり空室になっていたりして専有部分に居住していない組合員のことをいい、平成16年頃には170180戸まで達していました。全体の2割に当たります。管理組合の役員は、その選挙規程により、区分所有者、その配偶者又は3親等内の同居の親族で、かつマンションに居住している者の中から選任されることになっており、従って、不在組合員は実質的に役員が免除されていることになります。

そのため居住組合員の中には、「不在組合員は役員にもならず、居住組合員は保守管理や環境の維持に努めているのに、不在組合員は何も協力していない」と、不満を持つ人が現れました。「我々の日頃の努力に乗っかって利益だけを享受しているではないか」という声も聞こえてきます。そこで、理事会は不在組合員に負担の一端を担わせる方法として、平成163月の総会で1戸あたり月額5,000円の協力金を徴収するという規約改正を提案し、区分所有者及び議決権の4分の3以上で可決されました。

管理組合は平成168月以降、改正された規約に基づき、不在組合員に上記の協力金の支払いを求めます。大多数は支払いに応じましたが14戸(7名)が支払いを拒否したため、管理組合は順次支払いを求める訴訟を提起しました(第1ないし第5事件)。1審判決は5つの裁判のうち、原告請求の結果が32で認容と棄却に分かれ、全部が高裁に控訴されましたが、その中の一部の控訴審で、協力金は月額2,500円に減額するという和解が成立しました。

これを受けて管理組合Xは、平成193月の総会で、「協力金」を「住民活動協力金」に名称変更して、その額は月額2,500円とし、一般会計に組み入れる規約改正案を提案し、特別多数決議で可決されました。また、「役員は理事会の決議によりその活動に応じた必要経費と報酬の支払いを受けることができる」とする規約の変更も同時に提案され、これも可決されました。

管理組合Xから訴訟を提起された7名のうち2名は和解に応じましたが、支払いを拒否した5名(12戸)について大阪高裁で判決があり、管理組合Xの請求は棄却されたのですが、その理由は、「本件規約変更によって役員の報酬と必要経費が支払われることになったが、これにより役員の精神的・肉体的負担や不公平感は補てんされることになった、役員の諸活動は区分所有者全員の利益のために行われるものであるから、役員報酬・必要経費の財源は全員で負担すべきものであり、不在組合員であるがために避けられない印刷代、通信費等の出費相当額を不在組合員に加算して負担させる程度であればともかく、住民活動協力金としてその全額を不在組合員に負担させる合理的理由はない」というものでした。従って、その規約変更は、「一部の区分所有者の権利に特別の影響をおよぼすべきとき(311項後段)」に該当し、その者の承諾のない規約変更は無効であるとして、控訴を棄却したのです。この総会では住民活動協力金と役員報酬の支払いの規約改正が同時に行われたことから、高裁裁判官は、役員報酬の全額を住民活動協力金から充当すると考え、役員報酬は不在組合員のみが負担すべきものではないと判断したと考えられます。

管理組合Xはこれを受けて最高裁に上告します。個別に5つ訴訟を提起し、棄却されたものは控訴し、認容されたものについては被告として控訴され、更に一つを最高裁まで上告したのですから、その労力と負担は大変なものだったろうと推測されます。

さて、この最高裁まで持ち込まれた住民活動協力金に関する規約変更が適法かどうかについては、その判断のもととなった区分所有法30条、31条の規約事項の解釈としては、初めての最高裁判断となります。これについて最高裁で示された判旨は以下のようなものでした。

「本件マンションはその規模が大きく、環境の維持管理やそれに類する活動が不可欠であるが、不在組合員は労務の提供をするなどの貢献をせず、更には管理組合の選挙規程から役員になることもないためその任務も免れており、一方で居住組合員だけが役員に就任して、不在組合員を含む組合員全員のために団体活動に貢献しその保守管理に努め、不在組合員はその利益のみを享受している」というものです。

「本来管理組合の運営に必要な業務やその費用は、組合員全員が平等に負担すべきものであり、業務の分担が困難な不在組合員に、規約変更によって金銭的負担を求めることで不公平を是正しようとすることに必要性と合理性が認められる」としました。

 また、「193月の総会の決議によって、役員に対する報酬及び必要経費の支払いが規約上可能になったものの、管理組合の活動は役員のみによって担われているものではなく、不在組合員と居住組合員との不公平がこの報酬によってすべて補てんされるものではない」として、「役員への報酬によって精神的・肉体的負担や不公平感は補てんされることになった」とした大阪高裁の判示を否定しました。

 住民活動協力金は当初規約で決めた5,000円から、他の控訴審の和解を受けて2,500円に減額しており、最高裁では、居住組合員の組合費が17,500円であるのに対し、不在組合員は20,000円で、15%増しに過ぎないということも判決の一つの理由にあげています。しかし、組合費の内訳をみてみると、一般管理費が8,500円で修繕積立金が9,000円となっています。修繕積立金は不在組合員であろうと居住組合員であろうと一律であってよいはずで、一般管理費だけからみると、居住組合員が8,500円なのに対し、不在組合員は2,500円増しの11,000円となり、30%増しと考えるのが正しい見方と言えるかもしれません。

 以上を総合的に判断し、地裁で焦点となった「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するかどうかを判断しています。区分所有法311項後段の「規約の変更等が一部の区分所有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」という定めの判断の基準として、「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が一部の区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合」という平成10年の最高裁の判決を引用して、住民活動協力金の支払いを拒んでいるのは180戸のうち12戸を持つ5名にすぎない等の事情に照らし、規約変更にはその必要性と合理性があり、規約変更により不在組合員が受忍すべき限度を超える不利益を受けるとは認められないとして、「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないと判断しました。

最高裁は高裁判決を破棄して、第一審の地裁判決を支持、住民活動協力金を定めた規約変更は適法であるとして原告管理組合Xの請求が認められたわけですが、この判決については多方面からの批判もあるようです。最高裁では全員一致の判決だったようですが、そもそも5つの地裁での訴訟のうち2つは原告の請求が棄却となっており、認容とされたものも高裁で棄却されたりと、判断が分かれています。裁判というのはそれぞれ異なった状況で複雑な条件の絡み合いで結論が出され、その一つの要素が異なっていれば違う結論が出る可能性があります。例えば平成16年の総会決議で決まった協力金の額5,000円のままであれば、異なる判決になった可能性も否定できません。

また、この裁判では役員就任を拒否したり、組合活動に非協力的な居住組合員の存在は認めながら、それへの協力金賦課については検討の余地ありとのみ言及していますが、この問題の解決は相当難問であろうと思われます。また、不在組合員は選挙規程によって役員になれないことになっており、結果として役員活動をしないからと言って負担金を課すことには不合理があり、そもそも居住していることを役員の資格要件とする必要があるのかという問題もあります。

いずれにしてもこの判決をみて、不在組合員に特別の協力金を課す規約は区分所有法に照らして適法であると即座に判断するのは早計であると言えるでしょう。