読者の皆さんこんにちは。当サイトでは今後しばらくの間、マンション関係の判例について色々な角度より調べ報告していきたいと思います。 マンション関係の問題と言うのは、マンション特有の問題と言う意味で、それはマンションについて、

その所有が専有部分と共用部分に分かれていること、   

管理組合を作り自治をしなければならないこと、   

区分所有者の共同利益に背反する行為に対しては断固として戦わなければならないこと、   

建て替えの手続き      などの領域に分かれていきます。


沢山の人が共同して上・下の部屋を持つということから、必然的に多くの、かつ従来の不動産所有関係とは全く違った多くの問題が発生してきます。「マンションは紛争の巣窟」と言われる所以です。これらの色々な問題点を知っておく事は、現在マンションに居住している人たちに役立つだけだは無く、今後マンション居住あるいはマンション投資を考えている人たちにも考える材料になるのではないかと考えます。それでは早速中に入って行きましょう。

尚順序として、まず「管理人室、車庫、倉庫の取り合いの問題」「上水道、下水道、電気などの配管・故障に絡む問題」「バルコニーなどは共用部分かと言う問題」「駐車場についてのぶつかり合い」「管理組合の成立の問題」「総会・理事会の在り方の問題」「理事長の問題」「規約の制定の問題」「規約と絡めてペットの問題」「管理費に差がある場合」「管理会社の取り換えの問題」「管理会社に対する賠償請求」「修繕積立金」「共用部分不当損傷」「共用部分不当使用」「迷惑行為」「管理費滞納」「暴力団事務所などの使用の場合」「建て替え」などと進んでいきます。

マンション判例の探索 その1 管理人室奪取の攻防

日本人のものの考え方として、自分の財産は自分一人のものと言う意識が強く、それを反映してマンション関係でも個人の所有権を守る、つまり専有部分が絶対で、各人のそれを守るのが法の目的と言う意識が当初は判例にもありました。その意識が少しずつ変わり、共同財産である共用部分の位置づけが変わっていくところが見所です。

まず昭和五十一年十月の東京地裁判決(東京地裁昭和五十年(ワ)四八七一号受付)です。東京都渋谷区の代々木上原にある七階建て三十戸のマンションです。このマンションの一階に周囲をコンクリート壁で囲まれた広さ四十一・七五平方メートルで中には和室が二室、ダイニング・キッチン、浴室、洗面所及び便所があり、その一角には受付室ともいうべき部分があり、カウンター付のガラス窓越しに、建物に出入りする者に対する応接ができるようになっていました。マンション販売会社(被告)は各室を区分所有者に販売後、この部屋は自分の名前で所有権保存登記をし、かつその土地の元の地主を管理人としてそこに住まわせていました。

区分所有者の代表数人(原告)がこの管理人室に狙いを付けます。これには伏線があって、そもそもは被告会社がこのマンションをこの管理人室を使って管理していたのですが、管理料の問題で原告らと紛争になり、被告会社による管理が行われなくなり原告らによる自主管理の状態でした。

原告らの請求は①管理人室の所有権保存登記を抹消すること②被告は原告にこの部屋を引き渡すこと③元地主は部屋から出ていくこと、です。

原告の主張は以下のようなものです。「本件管理人室の位置、受付室を備えた構造、室内にエレベーターの非常電話機・建物全体の火災報知器・玄関ホール付近の電源スイッチ等の設備があることから、本件管理人室は、全体として、本件建物の管理のために必要なものであり、建物区分所有法四条一項(現行法)の『構造上区分所有者全員の共用に供されるべき建物の部分』にあたる。また、本件管理人室が構造上の共用部分として広すぎるとしても、その奥の居住部分は、受付室の玄関ホールに面した扉を唯一の出入り口としていて、受付室を通過しないでこれに出入りすることはできないから、そこには利用上の独立性はない。また加えて、当初は本マンションは管理人室付と言う宣伝で売り出された。」

これに対して被告の反論です。「元地主を住まわせるために本件管理人室を設けたのであり、本件建物の管理のためだけに使用するのならば、このような広さは必要でない。加えて受付室は今は使っていない。また諸設備は玄関ホールその他に移設することは簡単である。だから本件管理人室は『構造上区分所有者全員の共用に供されるべき建物の部分』にあたらない。」

これに対して判決です。「本件管理人室が構造上の共用部分であると言いうるためには、同室が全体として、その構造及び機能から見て、区分所有者全員にとって不可欠であるか、あるいは共用とされるのに適当であり、共用以外の用途に供されることが通常期待されえないものであることが必要である。本件はそうではない。共用部分としたいならば、規約を改訂し共用部分とすべきである。受付室は実際には機能していないのだから、管理に必要とはいえない。管理人室付マンションとして買ったと原告は言うが、今それが共用部分かどうかを検討しているのであって、それは関係ない。」として、原告を退けました。