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マンション判例の探索4

     ―――バルコニーの使用方法について―――

 

        全国貸地貸家協会専務理事・全国貸地貸家協会新聞編集長 宮地忠継

 

皆さんこんにちは。マンション問題において、具体的な裁判例の中の入り、原告、被告が何をどのような理由で主張したかを考えようという試みの第四回となりました。今回はバルコニーの使い方等について見てみましょう。ケース毎、情況毎に裁判官は色々な結論を出します。

 

西武新宿線上石神井駅と西武池袋線の間に昭和42年に当時の住宅公団が開発分譲した大規模な団地があります。木立に囲まれた広々とした敷地に5階建て9棟もの建物が南向きに並んでいます。この一つの建物内で、バルコニーに温室を作り管理組合から撤去するよう求められた裁判があります。東京地裁では原告の管理組合が敗訴となり、原告は控訴し、東京高裁では判決が覆され、更に最高裁に上告されることになります。

 

では、詳細を見ていきましょう。地裁と高裁では正反対に議論が展開されます。先ずは東京地裁昭和45年9月の判決(昭和44年(ワ)10548号受付)です。

被告Y(区分所有者)は昭和42年11月にバルコニー手すり用障壁上にアルミサッシ枠にガラスをはめ込んだ窓を設置し、隣家のバルコニーとの境の仕切り板の上部に回転窓を取り付け、隙間をベニヤ板で塞いで温室として利用していました。管理組合は、建築協定で定めたバルコニーの改築禁止条項に基づいて、再三撤去を求めますが被告が聞き入れなかったため、訴訟に持ち込みました。

原告X(管理組合)はこの工作物設置が①美観を損なうこと、②バルコニーに一定以上の重量が加わるとバルコニーの存立に危険を及ぼすこと、③バルコニーは隣家との間の避難路となっているため改築することでその効用が失われることを主張して撤去を求めています。

被告はもとより建築協定にバルコニー改築禁止の条項があることを知っていました。裁判では、被告がバルコニーに造作を施した行為がバルコニー改築を禁止する建築協定の規定に抵触するかどうかが判断されました。

裁判官は、建築協定は組合の構成員が住宅部分・敷地等の利用方法に一定の基準を定め、共同生活の円滑な運営と生活環境の維持を計るために設定されたものであるとし、バルコニー改築の行為そのものというより、禁止する理由に注目して、その禁止する理由に抵触しなければ、即ち実質的に住民の共同の利益を害することがなければ、被告の造作は建築協定が禁止する改築には該当しない、と判断しました。

原告主張に対する被告反論について、①美観については、温室には観葉植物を置くなどして美観に配慮しており、他の相当数の居住者が物置を設置したり、洗濯物をはためかせていることを考えれば美観を損なってはいない、②バルコニーへの加重は危険を及ぼす程度ではなく、③非常時の隣家の避難も困難というほどではなく、隣家も設置を承認している、として、被告の改造行為は建築協定が禁止する改築には該当しない、と判断されました。区分所有者には所有権に基づく自由があり、共同の利益のためにこれを制限する範囲は最小限にするべきであるという裁判官の考えに基づいた判断であると考えられます。

これに対し、控訴した高裁での裁判官の考え方は正反対です。自己の所有である住宅についても住民全体のため完全な所有権行使は制約を受け、まして共有・共用部分については個人の自由は相当制限されて当然で、このような必要と現実の上に規定されたのが管理規約・建築協定であり自治規則の支配する社会に自ら身を投じた以上、当然拘束を受けずに団地で生活をすることは許されないと断じています。

 

では、高裁での展開を見てみましょう。東京高裁昭和47年5月判決(昭和45年(ネ)2518号受付)です。

高裁においても、バルコニーにおける工作が建築協定に違反しているか、が最大の争点となっていますが、共同住宅の建物の躯体部分は管理組合の管理する共有物と規約で定められており、バルコニーは建物の躯体部分に含まれるから共有物であって、共有物は組合の管理下におかれるから個々のバルコニーの改築は許されず、更に建築協定はこれが絶対的禁止を明定しており、被控訴人(区分所有者)の工作物がバルコニーの本来の形態を変えるものであることからその改築に当たることは否定できないとして、この工作が協定に違反する改築である、という結論に至っています。

原告(控訴人=管理組合)は地裁の裁判より主張を更に進め、美観については、例え部分的に美しい物であっても、工作物があると全体に均整のとれた統一美の観点から調和を欠くとし、また、もし大地震が起こったら窓が落下する可能性があること、また雨が吹き付ける日はガラスを伝って階下に滝のように水が落ちること、更に非常時にはバルコニーは隣家のみならず同一階全部の避難路となっており、工作物が避難に支障を生じることをあげ、更に新たに加えたこととして、組合員が建物を改築する時は、協定により両隣上下4名の承諾書を添付して理事会の承諾を得なければならないのに、手続きをしていないことをあげています。

 

高裁判事は地裁判事の考え方を暗に批判し、その禁止する理由に抵触しなければ、即ち実質的に住民の共同の利益を害することがなければ、被告の造作は建築協定が禁止する改築には該当しない、という考え方は、改築を絶対的に禁止している協定の趣旨に矛盾するとして、工作物設置が実質的に見て禁止に触れるものであるかを、上記の原告の主張を入れて更に考究しています。

美観の観点から見た統一美の保持は、経済的に多大な影響を及ぼすものであり、その保持を図る必要があること、バルコニーを密閉することは隣家に心理的抵抗を与えて非常の場合の避難を困難にするであろうこと、ガラス戸を伝った雨水が階下に迷惑を及ぼすことなどに触れ、実質的理由を検討した結果として、絶対的禁止とした建築協定が理解できる、として、地裁の原判決を取消し、管理組合がすでに再三の撤去を求めていることから、相当の期間をおくまでもなく、即時工作物を撤去して原状に復旧すべきと命じました。

被控訴人の区分所有者は上告しましたが、最高裁では高裁の判決が支持されました。

 

マンションの各部分が専有部分か共用部分かについて争われることがしばしばあります。居室が専有部分であり、階段や廊下が共用部分であることに疑いを持つ人はいないと思いますが、バルコニーや排水管等、使う人は限られていながら一面で共用性を持つ物に関しては、その利用形態や構造上の問題等から判断が分かれることがあります。

また、マンションは多くの人の住む共同住宅であり、他の人とは異なった考え方をする人もいて、管理組合の中でもめたり、あるいは組合員が管理組合と対峙するケースも時折みられます。

 

前述でバルコニーにミニ温室を作った人が管理組合に訴えられ、撤去を命じられたことを取り上げました。今回は、バルコニーは専有部分だからと、バルコニーの修繕工事を自分の所だけ拒否した事例を簡単にまとめてみました。

田園都市線の沿線がまだまだ一面の野原だった昭和47年、たまプラーザ駅近辺において、当時の住宅公団により大々的に開発され、47棟のマンションが建設分譲されたうちの1棟の話です。横浜地裁昭和60年9月の判決(昭和58年(ワ)第四七一号受付)です。

 

築後十数年経ち修繕工事が必要であるとして、被告Y(一区分所有者)を除く組合員全員の賛成のもとに、外壁・屋根・階段室・バルコニーの防水塗装工事が実施されました。一人当たり39万7千円の費用負担となり、規約・協定で共用部分の管理・保存にかかる費用負担は公平に負担することとなっていることから、組合員全員がその分担金を支払いましたが、被告が支払いを拒否したため、原告らが立て替え払いをしました。

被告は、バルコニーは共用部分でなく専有部分であるとして、従って専有者の同意がなければ補修工事はできず、漏水などないから工事は不要である、と主張しました。バルコニーは居室という専有部分にしか通じていないこと、物干し場などとして居住者の利用に供され、他の人は使えないことなどをあげ、居室と同様、躯体部分は共有物であるが、居室が専有部分であるようにバルコニーも専有部分である、と被告は主張します。

 

判決は、バルコニーは各戸の使用者の専用に供されるべきものと認めながら、建物区分所有法の定めにより、共用部分に含まれない建物の部分であっても規約により共用部分とすることができるのであり、かつ本マンション規約では建物躯体は共用部分とされている。本件バルコニーはその構造上からも、機能・外観維持のための管理の点からも、建物躯体に含まれるものと考えて共用物であると判断し、被告に分担金の支払いを命じました。

 

さて、三つ目は再びバルコニーの使用方法の問題です。東京地裁平成3年12月の判決(平成2年(ワ)9314号受付)です。当新聞では、以前にその結論だけを引用して紹介したことのあるケースです。中野区の地下鉄丸ノ内線の富士見町駅の南側で、小高い丘になっているところの縁を神田川が大きく蛇行するその丘の中心辺りにあるマンションです。閑静な住宅街で、当該マンションも真っ白な外壁が塗りなおされ、新しいもののようにさえ見えます。三階建てで、道路に面している辺が小さく、道からはその上の方の階のバルコニーに何が置いてあるかなどほとんど分かりません。このマンションの三階の一室の住民が被告の区分所有者Yです。彼は以前から衛星放送を見るためにバルコニーに直径47センチほどのパラボラアンテナを置いていました。設置費用に62,000円かかりました。

その後当マンションでは、衛星放送受信用の共同パラボラアンテナを屋上に建てようということになり、管理組合の総会で決定され、各戸に負担金の支払い義務も決定されました。同時にすでに個人で衛星放送受信用のアンテナを設置している者は、共同アンテナが設置された際は個人用の物は撤去するということも決められました。

この総会等で、区分所有者Yは反対意見を述べたのですが、押し切られました。そもそもYは以前にはこのマンションの管理組合の理事長もやっていたことがあります。

ついに共同パラボラアンテナは建てられました。Yはおさまらないので、拠出金も払わず、また自分のアンテナの撤去もしません。そこで管理組合Xは、拠出金の徴収と、Yのアンテナの撤去を求めて訴訟に至ります。原告の管理組合Xの主張は以下のようなものです。「本件バルコニーは当マンション管理規約により決められた被告Yの専用使用が許された共用部分であり、被告Yは管理規約に従って、本件バルコニーを『その通常の用法』に従って使用する義務がある。本件バルコニーに当該アンテナを取り付けることは、『通常の用法』に従った使用方法ではない。また、一方で、共同アンテナの設置及び個人のアンテナの撤去は総会で決まったのだから遵守すべきだ。」

これに対して被告区分所有者Yは反論します。「そもそも区分所有者の自由を制限する規約の解釈は厳格に行うべきものであって、拡大解釈をすることは許されないものである。被告がパラボラアンテナを設置した数年前は、一般的に衛星放送の受信には個別に、かつ多くのマンションではバルコニーにパラボラアンテナを設置して、放送を受信していた。そして被告の場合もそれしか方法が無かった。つまり、バルコニーに個別のパラボラアンテナを設置することは、エアコンの室外機を設置し、植木を置き、洗濯物や布団を干すのと同じように、バルコニーの通常の使用方法と言えるのである。総会の決議で決まったと言うが、本件アンテナはそれよりも約二年前から設置されているのであり、そのような議論は権利の濫用である。」

これに対する裁判所の判断です。「数年前に本件パラボラアンテナが被告のバルコニーに設置されたときは、それしか方法が無く、かつ一般的にも広く行われていた方法で、その時はエアコンの室外機の設置などと同じくバルコニーの『通常の用法』と言えたかもしれない。しかし、『通常の用法』の意味は状況の変化によって変わるのである。総会の決議によって決められ、現実に共同パラボラアンテナが屋上に設置された以降は、そもそも本件バルコニーは区分所有者全員の共有部分であって、被告はただ専用使用を許されているに過ぎないことを直視するならば、その状況の下ではバルコニーに個別のアンテナを設置し続けることはもはや『通常の用法』とは言えない。そして、「権利の濫用」についても、被告はこのバルコニーについて、『通常の用法』に従った専用使用を他の全区分所有者から許されているのだから、『通常の用法』でない使用方法をする場合は、「権利の濫用」と非難することはできない。」として、被告の主張を退けました。その後被告区分所有者Yは控訴に及びましたが、結局控訴中に和解に応じ、管理組合のほとんどの要求を認めました。

 

最後のケースもバルコニー上の設置物の例です。マンションのバルコニーの手すり上にガラスとアルミサッシを設置した被告Y(区分所有者)に、管理組合(X)が撤去を要求しましたが、バルコニーを専有部分と認め、更に専有部分の使用方法に違反しないとして請求を棄却した事例です。バルコニーについては住居と同様、居住者しか使用しないため、その使用方法をめぐっての紛争は多く、裁判例も多数あります。

 

では、その詳細を見てみましょう。世田谷区の若林に昭和50年に建築されたマンションのバルコニーに関する紛争の事例です。東京地裁平成4年9月判決(平成3年(ワ)12163号受付)です。

被告は昭和50年義兄から使用貸借でこのマンションを借り受け、その後昭和61年贈与により取得して移転登記をしました。このバルコニーは北側に面していて寒かったため、住み始めてすぐに、防風防寒工事を建設業者に依頼してほしいと義兄に頼んだのですが、費用がかかると業者から断られたため、昭和50年12月に自費で工作物を設置しました。

このマンションは管理会社が管理をしていましたが、管理規約・使用細則は平成元年の施行まで存在しませんでした。

 

原告X(管理組合)は、バルコニーは構造上の独立性も利用上の独立性もないから専有部分ではなく、また階下5階の一部の屋上も兼ねているため、管理規約の如何を問わず法定共用部分であり、改築は許されないとして工作物の撤去を求めました。

これに対し被告は、義兄と販売業者との売買契約書でバルコニーは専有部分と表示されており、被告は義兄から専有部分として譲り受けていること、隣接との境界は厚いコンクリートの擁壁となっており、緊急時の避難通路として機能しないから共用の実益はないと反論しています。判決は、マンション売買のあった昭和50年頃は、専有部分と共用部分との区別が確立しておらず、区分もあいまいであり、売買契約書の物件表示に専有部分と表示されていたことから、専有部分と言わざるを得ないとしました。

 

また、管理規約によってバルコニーは共用部分とされましたが、法律不遡及の原則というものがあります。事後に定めた法令によって遡って違法だとして処置することを禁止するものです。この工作物設置は昭和50年で、管理規約施行が平成元年のため、この原則に基づき、この管理規約は被告の工作物設置には適用されないとされました。

更に、工作物設置はバルコニー使用法上の制約に反するかも争点となりましたが、マンションにおいては専有部分についても組合員全員のために所有権の行使は制約され、建物全体の美観や安全性を損なう場合には制限されるべきと考えられますが、これについてもこの設置物は美観を損なうとまでは言えない、バルコニーに危険を及ぼすとまでは言えない、とされました。このあたりはかなり主観性の問題であり、判断は微妙なところです。それならうちも、と考える人が出そうですが、理事会が工作物の設置を知って撤去を求めたのは、設置から14年も経っているから今更撤去させることはできない、という指摘も加えられているので、今から設置するというのは認められないことになります。