マンション判例の探索5ー駐車場専用使用権
マンション判例の探索5
ー抽選による駐車場専用使用権ー
全国貸地貸家協会新聞 編集部
皆さんこんにちは。今回は、駐車場とその専用使用権、そして抽選のケースを見てみましょう。その前にまずマンション全体の動きを眺めます。
日本に初めて分譲マンションが建てられたのは昭和三一年です。それまでは長屋という形においてその建物の一部の所有権が旧民法で認められていましたが、マンションの権利関係はその規定だけで律することが難しく、次第に数が増えてきたマンションに適用するため、昭和三七年に「建物の区分所有等に関する法律」が初めて制定されました。
その内容は簡単に言うと、一棟の建物を専有部分と共用部分とに分け、専有部分についての所有権を「区分所有権」とし、共用部分については区分所有者全員の共有としたこと、共用部分の変更は区分所有者全員の合意が必要なこと、管理は持ち分の過半数の決議でできること、建物・敷地・付属設備の管理・使用等の規約の設定や変更は区分所有者全員の合意が必要なこと、集会の議決権は持ち分の割合によること、などでした。
その後高度成長に伴い大都市への人口の集中が始まると、マンションの数はうなぎ上りに増え、更には地方へも波及して相当数の人々がマンションに住むようになりました。マンションは一つ屋根の下に多くの居住者が住む所です。全体が共同体、言ってみれば現代のムラと言えるかもしれませんが、考え方・生活の仕方の違う人々が一か所に密接して住んでいるのですから、当然紛争も多発するようになります。
法律は時代の流れや社会の要請によって変わるべきものです。昭和三七年に制定された区分所有法は、当時としては画期的なものでしたが、制定当初は予期しなかった様々な問題が起こるようになり、その解決を図りまた未然に防ぐために、昭和五八年、区分所有法が大幅に改正されました。
先ずは、敷地利用権と専有部分の一体化です。それまでは専有部分と敷地は別々に登記されていました。また、管理組合を設立することや、規約の設定・変更に区分所有者全員の同意を必要としていたのを多数決に変更すること、また建て替え制度の導入等を図りました。更に、阪神淡路大震災の影響もあり、平成一四年の改正では建て替えや大規模修繕の法律上の要件が緩和されました。そのほか理事長など管理者の権限が拡大し、また管理規約の適正化が図られて、区分所有者間の利害の衡平が図られることになり、著しく不公平な管理規約は無効と判断されることもあり得るようになりました。
さて前号ではマンションのバルコニーの使用に関する訴訟を取り上げました。今回と次号では、訴訟数も多い駐車場問題を取り上げます。先ずは敷地内に設定した専用駐車場の事例です。
大阪のMマンションの事例です。マンションの駐車場は通常戸数より少なく、その配分の方法にはいろいろありますが、ここではマンションの分譲会社が分譲に際し、希望者に抽選によって各四〇万円で専用使用権を分譲したのですが、抽選に外れた人Xが訴訟を起こしました。訴訟の相手は抽選に当選した人Yで、駐車場専用使用権不存在確認の裁判です。大阪地裁で原告Xは敗訴し、大阪高裁へ控訴しますが、高裁では分譲の対価を受け取った分譲会社Aも相手取りその返還を求めましたが、再び敗訴しました。大阪地裁昭和五三年一一月の判決(昭和五二年(ワ)第八六号受付)、大阪高裁昭和五五年四月の判決(昭和五三年(ネ)二〇四三号受付)です。ただ、ここで頭に入れておいていただきたいのは、これは昭和五八年に改正された区分所有法の前の旧法における訴訟だということです。では詳細を見てみましょう。
分譲会社Aは昭和四八年、大阪市東南郊外の現JR平野駅近くにマンションを分譲しましたが、その際、敷地の一画に駐車場を設け、マンションの分譲とは別個に専用使用権を一台四〇万円で分譲することにしました。マンション購入者と売買契約を締結するにあたり、重要事項説明書にその旨記載し、駐車場の図面等の詳細を添付しました。また契約書には、駐車場の分譲を受けた者及びその譲受人の専用使用権を承認するということが規定されていて、マンション購入者はそれを承知で分譲を受けたことになります。分譲会社も手ぬかりなく手続きを取っています。
さて、X、Yも共に前記重要事項説明を受けて売買契約を締結しました。駐車場専用使用については希望者が多かったため抽選により購入者が決定されましたが、Xは抽選に外れ、Yは当選しました。当選者は四〇万円を支払えば駐車場を永久に使うことができる、ということになります。抽選に外れたXはその理不尽さに気が付きます。Xは抽選に当選したYを相手取って、専用使用権不存在の確認訴訟を起こします。
Xの主張です。先ず、敷地については区分所有法の共用部分の管理に関する規定が準用されるべきで、敷地に駐車場専用使用権を設定することは共用部分の変更と考えられるから、区分所有者全員の合意が必要であるのに全員の合意を得ておらず、区分所有法に違反しているから無効であると主張しています。これに対しYは、区分所有法は建物の区分所有に関する規定であり、敷地には準用されないと反論しており、高裁もこれを支持しています。当時の区分所有法の目的は建物のみで、敷地に関する規定がほとんどなかったので、この判断になったと思われます。
更にXは、この設定に関する規定は、購入者の情報・知識の無知に乗じて分譲会社Aが過大の利益を得るために一方的に約款を定めたもので、購入者は不測の不利益を被り、購入者間にも不平等がもたらされたから公序良俗に違反し無効であると主張しました。これに対して裁判官は、分譲会社Aは、共有持ち分付きでマンションを分譲しながら敷地の一画に専用使用権を一台四〇万円で別個に分譲しているから二重に利益を得ている疑いもあるが、これは販売政策で総合収支計算をしているとも考えられ、二重の利得とは即断できないとしています。
また、敷地には当然固定資産税が課税されます。Xは区分所有者は持ち分に応じ固定資産税の負担をしているのに駐車場部分は使用ができず、不利益を受けていると主張しますが、これに対し裁判官は、専用使用権を分譲する権利とその分譲を受けた者が使用することを購入者が承諾して契約している、として公序良俗には反しないとしています。高裁の裁判官は更に、敷地の中の駐車場部分を使用できないことは、借地権付き土地の所有権を譲り受けた場合と大差はないと論じています。
Xは更に、専用使用権を取得した者と取得しない者に著しい不平等があると主張しますが、これに対しても、四〇万円を支払ったことと、毎月の管理費に五〇〇円の差があることをあげ、さほどの不平等は認められない、というYの反論を支持しています。
以上が地裁、高裁の判断で、最高裁はこれを支持して上告を棄却しています。
地裁、高裁、最高裁とも原告が敗訴しましたが、どこかすっきりしない感じが残ります。裁判官は、専用使用権の取得者と非取得者に不平等は認められないとしながら、専用使用権を取得した者が他の区分所有者に高額で専用使用権を転売するという事実に対しても、規約で管理費を修正するなどの方法で解消を計る方法があると述べており、また高裁の裁判官は契約書の専用使用権の約定を有効であると認めながら、規約に駐車場の定めがあれば規約を改正する方法があり、定めがなければ共有物管理の法理によって駐車場の廃止も可能であって、専用使用権が永久に使用できるとは限らないと示唆したりしています。裁判官もこの分譲方式が不公正であることをうすうす感じながらの判断のような感じがします。
普通に考えれば、専用使用権取得者と非取得者はかなり不平等に思えます。非取得者は敷地内の駐車場を永久に使用できないし、マンション売却に際しても、取得者は「管理費五〇〇円増しで永久に使える駐車場付き」として売却すれば買い手もすぐに付くことでしょう。そもそも希望者の中から抽選をするということは公平を期すためで、契約自由の原則から言えば当時の区分所有法の範囲で正しかったと言えるのかもしれませんが、その抽選で得た権利を永久に持ち続けることができるということが、そもそもその抽選の持つ公平さとは矛盾していると言えるのではないでしょうか。
マンション分譲に際しては、当初分譲業者がすべてを決め、原告も指摘しているように購入者はそのすべてを受け入れて契約するか、嫌ならやめるか、その選択肢しかなく、この駐車場専用使用権は有無を言わさず承諾させられている、と言わざるを得ません。
大阪府建築振興課や日本高層住宅協会も、駐車場の分譲方式は好ましい形ではないからできるだけ賃貸方式にして、マンション購入者全員が駐車場を賃貸し、賃料は管理費に入れるように、と指導しており、当時の建設省も昭和五四年に通達を出して同様の指導をしています。この裁判の裁判官は、当時の区分所有法の中で、苦渋の判決を出したのかもしれません。■
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