130430-世田谷八幡1

全国貸地貸家協会新聞編集部

前回は専用駐車場に関する判例を取り上げましたが、今回は管理規約についてです。東京地裁平成五年十一月の判決(平成四年(ワ)六五九七号受付)

 

被告Yは昭和四四年東京世田谷にメゾンHを建築して分譲しましたが、その際、共用部分はすべて被告Yが管理することなどを内容とする管理契約を購入者全員と結びました。Yは自らも区分所有者となり、一部の専有部分は分譲せず賃貸していました。分譲当初からYは管理業務を行い、管理費を徴収していましたが、平成三年にYが管理費値上げを一方的に宣言します。このマンションの管理は二〇年以上Yの独壇場だったことから、少々図に乗った、というところでしょうか。これにより今まで黙って従ってきた区分所有者たちが決起します。全区分所有者一三名のうち一一名の招集により、同年七月初めての集会が開催されました(第一集会)。 一三名中Yを含め一二名が出席し、議決権の過半数とYを除く全員の賛成により、原告Xと他一名を管理者として選任する決議が可決し、両名は就任を承諾しました。

更に同年一二月の集会(第二集会)において、管理費に関する決議がなされます。管理者は就任時にさかのぼり、また将来にわたり、各区分所有者に管理費の遅延損害金を請求できることを決議し、更に管理費の内訳とその単位当たりの額を定め、Yが負担すべき管理費の額と、その支払いを求める決議をしました。

第一集会の決議で管理者となったXは、Yに対し第二集会において決議されたYが負担すべき管理費の支払いを求めて提訴します。

 被告となったYは、先ず、第一集会は手続き上の違法があるから決議は無効であると主張します。Yは管理者は自分であるとし、その根拠として、分譲時に個別に区分所有者と締結した管理契約により、各区分所有者はYを区分所有法上の管理者と定める合意が成立したと言い、第一集会は管理者の招集によらずに開催されたから、集会の決議は無効である、という論理です。

裁判官はこれについては、Yは各区分所有者との個別の管理委託契約に基づき、受託者として管理業務に従事していただけで、この契約書には、区分所有法上の管理者に選任するという条項はなく、更に区分所有法上の管理者に義務付けられている毎年一回の定期的事務報告もしていないとして、Yは区分所有法上の管理者ではないと断じます。従って招集手続きに違法はないとして、第一集会における管理者の選任決議は有効であるとしました。 ということは、その決議まで区分所有法上の管理者は不在だったということになります。

また、管理費については、区分所有法一八条一項で、共用部分の管理は集会の決議で定めることができるとされており、一九条により、持ち分に応じて共用部分の負担をし、そこから生ずる利益を収取すると規定されています。共用部分の維持費、修繕費や設備の使用料も集会の決議でその額・計算方法を定めることができることから、裁判官は、原告Xは区分所有法二五条の管理者に選任されたのであるから、Xは区分所有者であるYに対して決議で定めた管理費を請求することができるのは当然だとして、平成三年一二月(第二集会の時)から平成五年一月分までのYの負担すべき管理費として一七五七万円を支払うようYに命じました。ただ、管理費の内訳の中で、電気料・水道料については所有者各自が負担すべきものであるから、集会の決議で料金の算定を求めることはできない、としてXの請求額からその分を減じました。

 被告Yが反論した根拠の一つに、Yは分譲時にX(Xは法人)との間で「区分所有権を第三者に譲渡しようとするときは、予めYに通知するものとし、Yは第三者に優先して譲り受けの申込みをすることができる」旨の合意があったことをあげました。Xの前代表取締役はYに通知することなくXの株式を現代表取締役に譲渡して会社ごとの売買を行ったから、これは実質的に物件処分による所有者の交替であって合意を潜脱する行為であり、Yに対して効力を生じないから原告の議決権は被告に対抗することができない、と主張したのです。これについて裁判官は、会社の株式の売買が行われたことは区分所有権の売買にはあたらないとして、Yの主張を退けました。

Yは更に、平成三年一二月の集会以前に一部の区分所有者の管理費滞納があり、その額は二二一八万円であることを表明し、Yはその債権とYの支払うべき管理費とを相殺する旨の意思表示をしましたが、これも債権、債務の帰属者が異なっていることから、相殺はできないとされました。原告Xの被告Yに対する管理費支払いの請求は、電気料・水道料を除き、ほぼ全面的に認められたことになります。

 

 マンション購入を考える時、一般的に何に着目するでしょうか。先ずは価格、そしてロケーション、間取り、広さ、外観、便利さ、築年、日当たり・・・等々であって、管理規約の詳細にまで目が行く人は少ないのではないでしょうか。居住してかなり経過した頃に管理に疑問や不満を感じ始める人が出てくる、というのが実態かもしれません。管理費が高い、あるいは管理費が不公平、駐車場の使用方法が不公平、管理会社の対応が不満、管理組合の理事長が選んだのでもないのに初めからずっと同じ人で、総会も開かれない・・・等々。

管理規約は分譲業者が分譲の際に規約案として作ったものを購入者が記名押印することで、全員の書面による合意があったとして規約として成立する、というケースがほとんどです。多数の人が一つの建物に住む場合に、もし初めに何の規則もなく、管理する会社も管理費も決まっていなければ、居住に直ちに支障をきたします。エントランスに明かりを点けたり、エレベーターを動かしたり、管理人を置いたりするのにも、管理費の負担等が規定されていなければ実施もできず、居住者がスムーズに生活を始めることは困難となってきます。従って、分譲される時に規約や管理会社、管理費等が決まっていることは必要なことと思われます。

ただ、分譲会社が分譲後に区分所有者になる場合や、等価交換方式によるものは、後々裁判に持ち込まれるケースがよく見受けられます。分譲業者が自分も区分所有者となる場合、自ら作る管理規約が自分に有利なものになることは考えられることです。また、等価交換方式では、分譲会社と元地権者との土地取引の取り決めにおいて、土地の売却を承諾してもらうために元地権者の優遇を図るというのもあり得る話で、結果として管理規約に専用駐車場を無償で使用する権利を設定したり、管理費負担に格差を設けるなど、後々紛争の火種に発展するような規約となることも考えられます。

等価交換方式はマンション建設の際よく行われる手法ですが、分譲の際のパンフレットで、総戸数と販売戸数に違いのあるものはこの等価交換方式によるものと考えられます。元地権者が複数の住戸を所有した場合、その後の管理組合のあり方に影響が出てくる場合があります。

平成一一年の国土交通省が行ったマンション総合調査によると、管理組合の半数以上が分譲時の管理規約(原始規約)の改正を実施していますが、管理規約の改正は、区分所有法で、区分所有者及び議決権の四分の三以上の多数による集会の決議ですることになっています。(但し区分所有者の定数については規約で過半数まで減じることができます)。元地権者は一人である場合と、複数存在する場合がありますが、合計の議決権が四分の一を超えている場合は要注意で、元地権者の反対があると、規約の改正ができないこともあります。平成一四年区分所有法の改正では、原始規約の不公平規定策定を防止するため、三〇条に各区分所有者の利害の衡平を図るよう三項が新設されました。区分所有者間の衡平を欠く規約は公序良俗に反し、民法九〇条によって無効となるとされています。

また、規約の設定や変更の内容が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすと考えられるときは、その区分所有者の承諾が必要とされます。特別の影響を及ぼすかどうかの判断は、全体が受ける不利益と一部の区分所有者がもつ利益を対比して考えることになるので、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすと判断されないためには、全体が受ける不利益を数字などで明示することも必要になるでしょう。一方、区分所有者も承諾をやたら拒否できるわけではなく、承諾しない場合には正当事由が必要となります。

 

 国土交通省が平成一六年に発表した「マンション標準管理規約およびコメント」はその後改正もされて、マンションの規約を作る時の指針となっていますが、最初にその標準モデルが作られたのは昭和五七年でした。平成一三年に「マンション管理適正化法」、平成一四年に「マンション建替円滑化法」等、法整備も進められていますが、マンションの建設が依然として続き戸数が増大する中、住民の高齢化や空室の増加など、マンションにおける問題は今後更に複雑多岐にわたって来ると思われます。管理規約を詳細までチェックし、適正に改正して行くことが快適なマンションライフに欠かせないことは疑う余地がありません。